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”猟育”のススメ


今や当然のこととなりつつある「食育」。


それを一歩進めた

「猟育」はどうだろうか。



友人一家が狩猟に同行したいという。

「食べる」こと、「生きる」こと、

を模索した結果、

自分たちが食べる肉を、自分たちで獲る、

ということに興味を持ち始めたとのこと。



そうした人たちが増えるのは

本当に有難いことで、

私は二つ返事で了承した。



前日の雨がまだ少し残っていたその日。

暗いうちに友人宅に迎えにいく。



父親は残念ながら出張中。

母親と中1・小4の男の子2人を車に乗せ、

6時過ぎの夜明けと共に鹿を探し始めた。



すると幸運なことに、

あっという間に発見。

3頭のオスの集団が

じっとこちらを見ている。



すぐにブレーキを踏むが、

子供達は分かっていない。



「ほら、あそこに鹿がいるよ」

「えっどこどこ? あ、ホントだー!!」


歓声をあげる子供達を諌め、

私だけ銃を持ってそっと車から降りる。


薬室に銃弾を送り込み

膝撃ちの姿勢をとると同時に

逃げ出す群れ。



「間に合わなかったか」と思ったが、

数十メートル先で一頭が止まり

こちらを振り返った。



迷いなく引き金を引く。



あまりにあっという間の出来事だったのか、

私が鹿を獲ったことを

子供達は分かっていない。



確認しにいくと3歳ほどのオスが横たわり、

頭だけを必死に上げようもがいていた。

子供達を呼ぼうか呼ぶまいか。

結局、自分だけでナイフを止めさしをして

血を抜いた。



「キュー」と弱々しい声をあげながら

鹿は全く動かなくなった。



車に戻り、

今度は子供達と母親を先頭に鹿に向かう。



「なんか黒いのがいる!」

と驚く子供達。

母親共々、怖そうに遠巻きに眺めている。



皆で感謝と哀悼の祈りを捧げ、

早速、解体に取り掛かった。



最初はなかなか鹿に触れようとしなかった子供達だが

「ほら、前脚引っ張って」

「鹿を仰向けにしといて」などと

有無を言わせずに手伝わせる。


「めっちゃ温かい!」

「鼻がプニプニで柔らかい!」

「チ○コがスゲー臭い!」

「目が青かったのにどんどん緑に変わってく!」



子供達は次々に自分で新しい発見をしていく。

好奇心はあっという間に恐怖心を上回るのだ。



肛門を抜き、腹を割く。

発情期のオス鹿の匂い、排泄物と血の匂い。


食卓に肉が出るまでには、

綺麗事だけでは済まされないこと、

この匂いを全部覚えておいてくれよ。




次に皮を剥いでいく。

慣れてきた子供達にナイフを持たせる。



遅々として進まない。

皮側に当てずに大切な肉を切ってしまったりもする。

でも、それでいい。

その苦労を味合わせたかったのだ。



肛門から喉元の食道と気道にかけては

ひとつながり。

一気に内臓を出す。



「これは何?」

「肺だよ、空気抜けてしぼんでるけど」

「心臓はどこ?」

「ちょっと待って、今出すから。ほらこれ」

「デッケ〜!」

Q&Aは延々と続くが、



手を止めてはならない。

両後脚、両前脚、バラ、

サドル(ロースとヒレ)、

ネック、そして記念の頭部。



ついさっきまで野山を走り回り

触れることのできなかった野性の命を、

物理的な重量として体感しながら

子供達は解体現場と車を往復する。



友人宅に戻り、

戦利品を車から降ろして物置に搬入する。



床の上に所狭しと並んだ肉を見た母親が

急に現実に戻り、

「こ、こんなにあるの!?

食べきれないし、冷蔵庫にも入りきらない…」



これも、狩猟、という言葉からだけではイメージできない、

自分で体験して初めて分かる実感だ。

肉はすぐに全て食べる必要はなく、

腿などはぶら下げて熟成させることで美味しくなることを説明する。



夜明け前からノンストップで動いており、

少々疲れたが、作業の勢いを止めずに

精肉を開始しようと思ったのが9時半。


その時点で狩猟仲間から連絡が入った。

罠に、デカいオスがかかったので

手助けが必要だという。


罠の現場は友人宅から高速を飛ばして1時間強。

「このタイミングでかよ」とも思ったが、

猟期が始まって1ヶ月、

罠をかけるたびに落胆を繰り返していた

彼の顔が浮かぶ。



ということで、精肉は一旦お預け。

罠の現場に駆けつけ、

早朝からやっていたのと同じ解体作業を繰り返す。



そして再び高速を飛ばして友人宅に戻り、精肉を再開。

サドルからロースとヒレを外し、

血合いをトリミングし、

子供達のリクエストに応えて

頭蓋骨を角付きの標本にするべく、

頭部の皮を剥いで下顎を外す。



強烈な眠気に襲われながら

ヘトヘトになって作業をしているのに、

子供達はゲームに興じて

もう手伝ってはくれない。



一段落した時には、

既に陽はとっぷりと暮れていた。



風呂を浴びさせてもらい、

出てくるとリビングに漂ういい香り。



食卓に並んだのは

ヒレとタンとキ○タマ。



歯ごたえ最高で、あっさりとしたタン。

柔らかく滋味に富んだヒレ。

文字通り「珍」味、であるタマは

母親も子供も食べようとせず、私一人で堪能。

ねっとりした濃厚な味わいが、口の中でとろける。



長い一日の苦労が報われる瞬間だ。



そして、夢中で箸を口に運ぶ子供達から

最高の賛辞をもらう。



「ウマッ!ウマッ!ウマッ! 」

「こんな美味しい肉食べたことない」

「今まで食べた中で一番旨い」



当然だ。



ただでさえ絶品の肉の味を

「苦労した体験」というスパイスが

更に引き立てているのだから。



お前ら、今日は本当にありがとうな。



また、行こうぜ。



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