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求めよ さらば与えられん





ここ数日の、

不思議な偶然の連鎖について記しておきたい。






狩猟や駆除で捕獲した獲物の有効活用といえば

やはりジビエだろう。

野山を駆け巡る野生動物の肉は滋養に富み、

とても美味しい。

しかし肉以外にも活用できる部位はある。

鹿で言えば角や毛皮だ。



角は雄にしかない。

立派なものは人気があり、

いい値段で売られているのを目にすることもある。

僕は自作のナイフのハンドルに使ったり、

革紐を編んでキーホルダーを作ったりしてきた。

これからは家のドアや引き出しの取手など

もっと色々と活用していきたいと考えている。



もうひとつが毛皮だ。

これまではあまり活用できていなかった。

獣の皮を剥いだことのある人は

あまりいないと思うので作業を説明すると、

左手で強く皮を引っ張りながら

右手に持ったナイフを肉と皮の境目に当てる。

ナイフで切る、というよりは

ナイフを軽く当てながら引き剥がす

という表現の方が現実に即しているだろう。



皮剥ぎで酷使するのは

実は利き手ではなく、反対側の方。

疲れてくると左手に力が入らなくなってしまうことも

しばしばだ。

楽に、そして短時間で皮を剥ぐテクニックとしては

敢えて皮をナイフで突いて

穴を開けてしまう方法がある。

穴に指を掛けて引っ張れば

握力を使わないで済み、随分と楽だ。

ただし、皮剥ぎが進むと同時に

穴を何度も開け直す必要があり、

皮が穴だらけになってしまう。

これでは毛皮として活用することはできない。



たとえ左手を酷使しながら丁寧に皮を剥いでも、

その先の鞣しの作業には

ダニや泥の付着した皮を洗ったり、

皮を板や枠に張って伸ばしたり、

長く煩雑な工程が待っている。

これまでは集合住宅に住んでいた為、

そうした作業スペースがないこともあり、

鞣し作業は専門の業者さんにお願いしていた。



しかし北海道に移住して

庭のある一戸建てに住むようになり、

この猟期からは自分で毛皮を鞣すことに

挑戦したいと思っていた。

敷物、壁の装飾、寝袋や防寒コートなど

作ってみたいものはたくさんあり、

今期捕獲した3頭分の鹿の毛皮を

凍らせたまま屋外に保管している。

折を見て鞣し作業に入るつもりだ。






そんな中、親しくお付き合いさせていただいている

地元のYさん宅に、新年のご挨拶に伺った。

Yさんは、今僕が住んでいる家の前所有者。

なんと無償で家と土地を譲って下さった大恩人だ。

Yさんに近況を報告する中で毛皮鞣しの話をしたところ、

いいものがあると言って

押し入れの奥から2つの段ボール箱を出して下さった。

中には革細工用の針やハトメ打ち、

縫穴を開けるための菱目打ちや菱錐など

年代物のお宝がびっしりと詰まっていた。

Yさんの義理のお母様が

生前に革細工を趣味として嗜まれていたそうで、

捨てるに捨てられず、とっておいたのだという。

手作りのバッグやペンケースなども見せていただいたが

大変精緻な作りで、

丁寧な作業と、誠実なお人柄が

作品から見て取れた。

道具は全て持っていって構わないとのこと。

Yさんとのご縁で、

たくさんの想いがこもった革細工用品を

思いもかけずに手に入れてしまった。



   ❊



翌日。

元旦に鹿2頭を撃たせていただいたMさん宅を訪れた。

この日は銃を持たず、

自分が鹿を追いかけたルートを再度歩き直し、

変化をチェックする。

撃った直後はあれだけ騒いでいた鳥たちはもういない。

2箇所の解体現場には、

何の痕跡も見当たらない。

山はあっという間に鹿を飲み込み、

静かに消化していた。

体は大地に還り、魂は大いなるものの元へと戻った鹿。

その一部は僕の血潮となって体内を巡っている。

これから鞣す毛皮は

僕の体と心を温めてくれることだろう。

彼女らの命を引き継いだ者として

感謝の祈りを捧げた。






玄関先でMさんに状況を報告後、

何かお手伝いできることがないか聞いてみると、

薪小屋から室内に薪を運び入れて欲しいとのこと。

僕はそのまま薪小屋に向かった。



一輪の手押し車に薪を積んでいると

片隅にフワフワした質感の何かが

転がっているのを見つけた。

よく見るとエゾタヌキの死骸だった。


凍ってはいるが、鳥やネズミにもやられていない。

命を落としたのは昨晩だろう。

狸の毛皮はとても暖かいと言う。

毛皮で服を作る時、

暖かくて肌触りが良い狸は

フード周りにあしらったら最高だ。

これは大変いいものを見つけた。

死んだ狸には失礼だが、

僕はなんと幸運なのだろう。

Mさんのご承諾を得て

持ち帰らせていただくことにした。



   ❊



その日の夕方。

日が落ちる前に

僕自身もストーブの薪を家に運び入れようと、

裏庭の物置に向かった。

中にはリフォーム時に出た廃材を

4、50センチほどに切って積み上げてある。

ナラなどの広葉樹は長く燃えるが

火を起こした直後に炉内の温度を上げたい時など、

針葉樹の木材はとても役に立つ。

築50年の家で使われていた古材は

乾燥具合も申し分無い。



物置に入り、身を屈めて木材を手に取った途端、

獣の匂いを感じた。

顔を上げると、

薄暗い天井の隅で蠢くものがいる。

今度はアライグマだった。

特定外来生物にも指定されていて

農作物を荒らし、

希少なニホンザリガニなども食べてしまう。

見逃すわけにはいかない。



目が合う。

雪を避けて小屋の隅で寝ていたところに

僕が急に入ってきて驚いて起き出したのだろうか。

相手の動揺が見て取れる。

凶暴な性格と言われるアライグマだが

現時点では僕に利がある。

ここで怯んではいけない。

睨みつけていると、

今度は体を反転させて逃げる体勢に入った。

ところがアライグマがいるのは天井の隅。

頭を隙間に押し込もうともがいているが

身動きが取れない。

チャンスだ。



しかし当然ながら僕は丸腰。

物置に薪を取りに来ただけなので

銃も、ナイフさえも持っていない。

どうしたものか。

手が届くところにあるのは、草刈り機やチェーンソー。

破壊力は抜群だが、

これを使ってしまっては

毛皮は台無しになるのは確実だし、

スプラッター映画宛らに

天井から血飛沫を浴びることになる。

斧はどうだろう。

背の部分を使って一撃を加えれば

確実にアライグマは死ぬだろう。

しかし力のコントロールが難しい。

弱くては致命傷を与えられないし、

思い切り振り回せば

物置の壁ごと突き破ってしまう可能性が高い。

その時、ふと我に返った。

既に自分がこの物置にあるアイテムの中で

アライグマを仕留めるのに最適なものを

手に握っていることに気付いたのだ。

長さ50センチ、45ミリ角の垂木。

軽くはあるが、

思い切り振り抜けばきっといける。



意を決し、そっとアライグマににじり寄る。

床が軋む度に

アライグマが身をすくめる。

僕からは尻尾とお尻しか見えていない。

引っ叩くなら頭だ。

その為にはアライグマに

こちらを向いてもらわなくてはならない。

同時にそれは現在の小康状態を破り、

いつ飛びかかられてもおかしくない危険に

我が身を晒すことも意味する。

しかし他に選択肢はない。



僕は垂木でアライグマの尻をつついた。

体勢は変わらない。

もう少し強く、下腹部にこじ入れるように

グリグリと差し込む。

するとアライグマが素早く身を翻した。



歯を剥き出し「シャーッ!!」と威嚇音が響くのと

僕が裂帛の気合いと共に垂木を打ち下ろすのが同時だった。

垂木は真っ向から頭蓋骨を直撃、

ふらついたアライグマは右手だけで梁からぶら下がり、

数秒後にドサリと目の前の床に落ちてきた。

身動きはしていない。

僕は、長い安堵の息を吐いた。



アライグマの毛は、とても柔らかそうだ。

上質な毛皮として、

海外ではよく帽子に使われる。

また以前、山と渓谷社の雑誌「狩猟生活」に

アライグマの肉の味が絶賛されている記事が載っていた。

僕が所属している狩猟同行会の仲間からも

アライグマはうまい、という話を聞いていた。

またしても、いいものを授かった。





暗くなった庭先に工事用のライトを立て、

凍えながら解体を始めた。

鹿のコロコロとしたフンと違い、

肛門からのぞいているアライグマのそれは

ネチョネチョとしていて臭い。

体全体からもツンとした刺激臭が漂ってくる。

毛皮にも肉にも

この匂いをつけないためには、

腹腔を開けずに内臓に手をつけないまま

解体するのが得策に思えた。



細かい作業が多くて苦心したが

1時間ほどで皮を剥き終わった。

予定通りに腹は開けず、

脚4本とロースの肉も取った。






夕食はもちろん、捌きたてのアライグマだ。

骨を取り除き、精肉していくが全くの無臭。

色は美しいピンクだ。

すき焼き、ハンバーグなどレシピの候補はいくつかあったが

まずはストレートに肉の味を知りたいと

シンプルにフライパンで焼き、

塩胡椒のみで食してみることにした。



本当に旨いのか、不安がなかった訳ではない。

気になっていたのはアライグマの食性だ。

鴨などでは、水草や落穂を食べる植物食のカモは旨いが

魚食性のカモの肉は臭い。

アライグマは雑食で、色々なものを漁っていそうだ。



まずはロースの小さな欠片から

恐る恐る口に入れて、たまげた。

噂は本当だった。

全く癖がなく、コクがあって味わい深い。

こんなに食べやすいジビエは初めてだ。

鹿、牛、豚、鶏、どの肉とも違うが、

敢えて最も近いものを挙げるとすれば

鶏の喉の肉、セセリだろう。

モモも前脚も、ロースに引けを取らずに美味しい。

全国のジビエ料理店は、

すぐにアライグマをメニューに掲げるべきだ。

人気メニューとなることは間違い無いだろう。

毛皮という視点からも、肉という視点からも

アライグマは本当に魅力的な動物だった。













今、室内の薪棚の上には、

赤い橇が置いてある。

中には凍結したままポリ袋に入れておいたエゾタヌキが

横たわっている。

一晩、薪ストーブの熱で温まり

解凍も十分に進んだことだろう。



さて、明日は狸の皮を剥いでみるとしよう。

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