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水仙と母子




江戸時代の華道の伝書、

生花七種伝の冒頭。



「陰の花水仙に限る 賞美すべき花なり」

と語られる。



今日の池坊の稽古は

水仙の生花正風体一種生け。

一年ぶり、二度目だ。



生花の中でも一種生けは本当に好きで

自然と背筋が伸びる。

シンプルだからこそ無限の広がりを持つ

余白の美。

詩で例えてみれば、

故事を語り継ぐ長大な叙事詩ではなく

十七文字のみで世界を丸ごと描く俳句。

1ミリずれただけでも、

一瞬気が緩んだだけでも、

台無しになる代わりに

全てがぴたりと決まった時に醸し出される

強くて静かな緊張感がたまらない。



春から秋は杜若。

冬は水仙。

合間に葉蘭。

それらの一種生けを繰り返している内に

一生が終わっても悔いはないだろう。



水仙の花の構造は少し変わっていて、

中心の黄色い部分は花びらではなく

副花冠と呼ばれる器官。

雄蕊と雌蕊をぐるりと取り囲む。

周囲に六枚あるように見える花びらの内、

実は三枚は萼である。

素人目にはどれが花弁でどれが萼なのか

さっぱり分からない。



理屈はともあれ、

「銀の皿に金の盃」とも称される花は

華美ではないが整った佇まいを見せている。



更に今日は水仙の香りにも気付いた。

自己主張せず、微かに甘い。



自然にくねる葉は妖艶でありながら

決して下品ではなく風情がある。



冬に咲く希少な花、水仙。

越前海岸では雪の中であっても

一面の花畑を形作る、と先生に教えていただいた。






極寒の中での、凛とした立ち姿は

森の中で出会った雌鹿を彷彿とさせる。



一本の花を前後に挟む四枚の葉は

つぶらな瞳と伸びやかな四肢。



後株の高きに開花を配し

前株の低きに蕾を用いるは、

私の目にはまるで

寄り添う母子そのものに映る。



決してこじつけではなく

私の中で水仙と鹿の美しさは

完全にシンクロしている。



かく在りたい、と思える

様々な命の美しさに触れ

共に歩む。



私は幸せ者だ。


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