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七十二の瞳




“Threat the earth well.

 It was not given to you from your parents,

 It was loaned to you from your children.” 



“大地を畏れ敬え。

 それはお前の先祖からの贈りものではなく

 お前の子孫からの預かりものだから。”

(ミキオ訳) 



15年ほど前に旅した、ニューヨーク・マンハッタン。

アメリカ自然史博物館の壁に彫られていた

ネイティブ・アメリカンの格言に私の心は震えた。

珍しい化石や、立派な剥製よりも長い時間、

この言葉の前に佇んでいたことを覚えている。



確かに、この自然を私たちにもたらしてくれた

祖先に感謝を忘れてはならない。

しかし、恩返しをしたいと願っても

彼らは既にこの世にはいない。



恩を返すには、

この自然を、より良く豊かなものとして

次の世代に引き継ぐ。

それしか、私たちに選択肢はないのだ。



随分昔に出逢った言葉について書いているのは、

それを思い起こす、とても嬉しい出来事があったから。






3月19日。

卒業を目前に控えた、東京の小学6年生に、

総合学習の時間で、狩猟について話をする機会をいただいた。



彼らが全く知らないであろう、鹿狩り。

どんな準備をするのか、

どんな狩猟の方法があるのか、

どうやって解体するのか、等々

実際の写真を見せながら、詳しく話した。



そして、それは狩猟を切り口として

食べる、とはどういうことなのか、

いのち、とは何なのかといった、

私自身、長年考え続けても

明確な答えの出ない深遠なテーマを

子供達にぶつけてみるという

私なりのチャレンジでもあった。



オンラインでの授業だった為、

子供達のリアクションは数名が子画面で見えているだけで

彼らが私の話を面白く聞いてくれているのか、

私のきちんとメッセージを受け取ってくれているのか、

不安もあった。



後日、担任の先生が

36人の子供達が書いてくれた感想文を送って下さった。

その文章を読んで、私の心は震えた。



こんなにも、伝わっていたのか。



あまりの嬉しさに

こみ上げてくる涙を止めようもないまま、

私はハンターとしての使命を

少し果たせた気持ちになった。





以下は、

6年3組、36人の皆さんが書いてくれた全員の言葉を、

ひと言ずつ抜き出して並べたものである。





「あんな立派な鹿が本当に狩れるんですね。」

 (事前に送付しておいた巨大雄の頭骨標本を見て)

「ハンターの話を聞く機会などないので、とても貴重でした。」

「一番びっくりしたのは、9才の子が鳥をとっていたことです。」

 (インディアンの師匠・キースの孫が9歳で初の雷鳥を獲った話について)

「シカの獲り方や、ハンターの役目など、たくさんのことが知れました。」

「自分が思っていたよりも狩りの方法がたくさんあったので驚きました。」

「シカを獲るには、道具の手入れ、天候チェック、筋トレなど、

 色々な準備が必要だったり、知らないことばかりでした。」

「頑張っているミキオさんをすごく尊敬できます。」

「お金がなくなったときに必要になるのは、

 ミキオさんみたいな人なのではないかと思いました。」




「鹿狩りについて教えてくれてありがとうございます。

 でも、鹿がかわいそうだと思いました。」

「死ぬまで立ち続けた鹿の話など、色々なことが心に刺さりました。」

「ハンターとは、シカの強さを知り、

 喜びも悲しみもともなう仕事だと思いました。」

「命を大切にすることも大事だけど、

 時にはころしたりしないといけない時もあるんだなと思いました。」

「シカの命がどれだけ大切か、

 どれだけがんばって生きようとしているのかが分かってよかったです。」

「鹿のことを色々教えてくれてありがとうござました。」



「ハンターの役目は“伝える”ことだと初めて知りました。」

「ハンターの役目が知れてよかったです。」

「私は、ハンターという仕事に助けられている面があると思いつつ、

 多くの動物の命をうばっていることに申し訳なさもいだきました。」

「残酷な写真や、話を聞いて、

 初めて自然というものを知れた気がしました。」

「ハンターはただ撃つだけの気軽なことだと思っていましたが、

 どれだけ気持ちがこもっているかを知りました。」

「ハンターをしているのに、

 命をすごく大切にしていてすごいと思いました。」

「動物を狩る人にいいイメージはなかったけど、

 シカを狩る人たちの方が、シカを思っている、

 ということがわかりました。」



「解体するところは少しこわかったけど、自分が食べるまでに

 こんな大変なことをしていることを知れて良かったです。」

「ふだん食べている肉は、殺した動物の肉を食べている

 ということが分かりました。」

「食べる者と食べられる者で、この世界はできているんだなと思いました。」

「動物が生きること、それは、

 どこかの生き物が死ぬことだということが分かりました。」

「鹿はかわいそうだけど、

 命に感謝することを改めて感じることができました。」

「今まで、食べた肉がどういう人生を送っていたのかなど

 考えたこともなかったので、いい勉強になりました。」

「私はこれから肉を食べる時、命に感謝して食べようと思いました。」

「今後、動物の肉をありがたくいただきたいと思いました。」

「命についてのお話を、くわしく聞けて良かったです。」

「命について、さらに深く考えることができました。」

「動物たちの生命力と、命の儚さについて改めて知ることができました。」



「一番心に残った言葉は“命は借り物”ということです。」

「色々な生き物から、命を借りていることを知ることができました。」

「シカを含めた命の尊さ、大切さを改めて知ることができました。」

「シカも一生けんめい生きているから、

 私たちも一生けんめい生きることが大切なことがわかりました。」






最高の贈り物。

なんと美しい、生命賛歌だろう。



今となっては思い出すことも難しいが、

かつて自分もそうであった

小さく未熟な者たち。

しかし、準備は整っているのだ。



吸収こそが彼らの能力。

みるみる内に成長し、

彼らの中に内包されていたイメージが、

溢れ出し、発芽することで

リアルな次世代の世界を作ってゆく。



そしてこの地球は

少しずつ姿を変えながらも、

今までと同様に、或いはそれ以上に、

美しく在り続ける。



彼らは今、

どんな中学生になっているのか。

そしてこれからどんな大人になるのか。

その時、私は何をして

この地球はどうなっているのだろうか。





そこに希望を見出せること。

それを人は“幸せ”と呼ぶのかもしれない。


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