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ワタリガラスからのメッセージ




三連休の二日目。



私が所属する狩猟団体の新人を連れて、

前日と同じポイントに入る。

狩猟は何と言っても経験が大事で、

初年度でまず一頭は獲ってもらいたい。

この日は、私自身が鹿を獲るつもりはなかった。



鹿道を歩きながら、

一日の鹿の行動パターン、

足跡から分かること、

天候や風の読み方、

色々なことを伝えていく。




今となっては自明の理、と思うようなことでも

念のために教えると、

なるほど!と納得してもらえる。




こちらに気付いていない遠くの鹿を指差すが、

なかなか見つけられない。

自分が新人だった頃のことを思い出す。





一時間ほど歩き、

前日に子鹿を解体した場所に差し掛かる。

気になって覗いてみると

未だにカラスやトンビが群れている。




その時、本当に久しぶりの鳴き声を聞いた。

コロンコロンと心地良く響く声の主は

ワタリガラスだ。

見上げると、くさび型の尾のシルエット。

間違いない。



アラスカやカナダではよく見た鳥だが、

日本で見るのは初めてだ。






私の師匠、キースはクリンギット族。

彼らの神話ではワタリガラスは特別な存在で、

人間よりも上位の存在として語られる。

闇に閉ざされていたこの世界に

太陽を盗み出すことで光をもたらしたのが

ワタリガラス。

単に神聖な存在ではなく、

時に騙したり、意地悪だったり、

人間以上に人間臭い。



星野道夫の著書をきっかけに

ネイティブ・アメリカンの世界観に惹かれていた私は

アラスカを旅し、その時に見つけた

ワタリガラスが太陽を咥えているデザインの

シルバーリングを買った。



偶然にキースと出会った時、

私はその指輪をつけていた。

それに気づいたキースが

「お前はなぜその指輪をしているのか?」と私に問い、

私たちは色々な話を始め、

かけがえのない友となった。



キースと仲良くなるきっかけを与えてくれ、

いつかクリンギット族の一員になりたいと

夢見ている私にとって、

ワタリガラスは特別な存在だ。





北米でしか見たことのないワタリガラスが

なぜか自分の頭上を舞っている。



祝福を受けている気持ちになった。



子鹿と雌鹿の命と自分なりに真摯に向き合い、

インディアンのやり方で祈りを捧げたことに対して

山を代表してワタリガラスが御礼を言ってくれている。



ワタリガラスをはじめ、

カラスやトンビたちが

鹿の命を引き継いでくれた。

湧き水の一滴が沢に落ち

大河となり海に注ぐように、

鹿の命は無限に広がっていくのだ。



あのワタリガラスが

ユーコンから飛来しているわけではないが

何かしらのメッセージを

運んできてくれているように思えてならなかった。





その後、かなり山奥に入り

滑落を心配しながら厳しい稜線なども歩いたが、

結局良い出会いはなく

新人に鹿を獲らせてあげることはできなかった。



帰り道に同じポイントを通ったが

ワタリガラスは既に姿を消していて、

カラスとトンビだけが木の枝にとまっていた。





帰宅してすぐ、

キースにこの二日間の出来事をメールで報告した。

翌朝、すぐに返事があった。



「間違いなくそのワタリガラスは

 命を無駄にしなかったお前へのメッセンジャーだ。

 私が狩りをする時、ワタリガラスはいつも

 ヘラジカやオオツノヒツジの居場所を教えてくれる。

 私が解体した肉をワタリガラスが食べ、

 そしてまた私に獲物の存在を伝えてくれる。

 獲物を仕留める度、

 私はワタリガラスに感謝の祈りを捧げている。」



嬉しかった。



山の命を殺めながらも

山に感謝されているとしたら、

私は正しく

その大いなる循環に組み込まれている、ということだから。



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