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ミネラル・エア



狩猟同行の希望者が絶えない。



土曜にお連れしたのはD。

夜明けと共に山に入る。



細かい枝先まで、びっしりと氷の結晶に覆われた森の木々。

霧氷だ。

気温は−12℃。

厳しい寒さが作り上げる繊細な自然の芸術を

浅い角度からの太陽光が

きらびやかに浮かび上がらせる。



冷たい空気を肺に行き渡らせる。

山の空気はいつも美味しい。

微かに吹く風は山の息吹だ。



生きている限り常に繰り返す呼吸。

取り入れる酸素は植物が作り出してくれたもの。

当たり前のように息をしていると忘れがちな事実だ。

呼吸が途切れれば数分で命を落とす。



私達は息をする度に

自然との共生関係を再確認しているのだ。



大地を浸透してきた湧き水が

ミネラルを豊富に含むように、

森を吹き抜けてきた風は

たくさんの芳香を含んだ

栄養たっぷりの空気だ。



春をじっと待つ枝先の冬芽を撫で、

動物たちの吐く白い息を回収し、

清流のしぶきをすり抜け、

何とも言えない淡い色の冬の陽光を浴び、

そうしている内に

山の大気には生命エネルギーが横溢し、

吸えば吸うほど体が健康になっていく。

科学的な証明は難しいかもしれないが

私は実感として確信している。





歩き始めてすぐに

こちらに気づいていない鹿を見つける。

ゆっくりと移動する4頭ほどの群れ。

しかし藪が濃く、距離も100メートル以上はある。

先頭の鹿を目で追っていると、

枝の間に、体が見える隙間があった。

銃を構え、わずかな隙間に狙いを定める。

2頭目が通過。

3頭目で引き金を引く。

しかし、やはり手前の藪で跳弾してしまったようで

鹿は逃げ去った。

その後も一度発砲のチャンスがあったが

捕獲には至らなかった。



2021年は、いきなり弾を外すところから始まった。

しかも2発もだ。

とても幸先の良いスタートとは言えない。



9時過ぎ、兎の罠をかけるポイントを探し始めた。

ここからは、一緒に罠をかけるハンターと、

まだ一度も鹿を捕獲したことのない新人の2名が加わる。



兎の獣道を見つけて罠を仕掛け、

鹿が出れば新人に獲らせて解体を教えようという作戦だ。



12月に罠を仕掛けたポイントは

5日間かけ続けても駄目だったので、

全く別のエリアにポイントを変えた。

先シーズンには、たくさんの兎の痕跡があった

という情報を元に探したのだが、

この日は足跡一つ見つからない。



しかし鹿の足跡は濃い。

案の定、群れに遭遇する。

距離は80メートルほど。

体を横向きにしたオスがいる。

こちらに気付いてはいるが動かない。

絶好のチャンスだ。



新人をすぐに呼び、鹿の存在を教える。

しかし動作がぎこちない。

あたふたと弾を込め、

立った姿勢でそのまま撃とうとするので

地面に座らせる。

すると今度は鹿が見えないという。

少しポジションを移し

ようやくスコープの中に鹿の姿を捉えた瞬間、

警戒音を残して鹿は走り去った。



山に行かなくても狩猟の練習はできる。

模擬弾を使ってスムースに弾を込める練習。

目標の一点を決めてスコープの倍率を上げ、

銃を構えた瞬間にその点をスコープの中心に入れる練習。



銃の扱いに習熟していない時点で

既に勝負は決まっていたのだ。



更にポイントを変え、

鹿を狙って日没まで歩く。

出会いは何度かあったが

撃てる状況にはなく

結局この日は猟果を得ることができなかった。



自分ではある程度コンスタントに

鹿が獲れるようになってきたが、

新人に獲らせるのは桁違いに難易度が高い。

これは私自身の修行でもある。



そして新人ハンターが参加してからは

Dとはほとんど話をすることができず、

大変申し訳ないことをしてしまった。

また是非リベンジさせていただきたいと思う。



しかし15キロ以上の山道を

新人もDも何も弱音を吐かずに歩ききった。

実は新人は2年前に肺の病気をして以来

すぐに息切れしてしまうのだが、

この日は不思議と苦しさを感じずに乗り切れたという。



これこそが山の恵み。

山の空気が栄養たっぷりだということの

確信が深まった日となった。

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