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インディアン修行の朝




朝6時を過ぎると夜が白み始める。

普段は滅多に取ることのできない

8時間睡眠からの目覚めは爽快だった。



雪は既に止んでいたが

辺りは一面、白銀の世界。

タープの天井も

雪の重みで大きくたわみ

圧迫感を感じる。

よくぞ一晩、

崩れずに持ちこたえてくれたものだ。


焚き火は消えてしまっており

薪の上にも雪が積もっていた。



猛烈に寒い。



それもそのはずだ。

ブルーシートの上に敷いていたのは

コットンのキルト地の敷布だけで

潜り込んでいたのは春秋用の薄手のシュラフ。



昨晩は酔っ払った挙句に全てが面倒になり、

焚き火が暖かいのをいいことに

スリーピングマットも膨らますこともせず

冬用のシュラフをザックから

引っ張り出しもしなかった。



もう少し日が上るまで起きたくないが、

ビールの飲み過ぎによる猛烈な尿意には

抗うべくもない。



タープの奥に仕舞い込んでいた

トレッキングシューズを出し

朝一番の日課へ。



くるぶしのラインぎりぎりまで雪に埋まりながら

靴の中に雪が入らないように慎重に歩き、

用をたす。



もう一度火を起こし直さなくては。

しかし全てが雪に埋まっている。

しまった。

朝に火が消えてしまっていることを想定し、

翌日の分の焚付けは前日のうちに準備し

濡れないところにキープすべきだったのだ。



仕方がないので一旦車まで戻り

長靴に履き替え、

本来は反則だよな、と思いながら

ガストーチを持ち出す。

雪から掘り出した

灰まみれの炭までは濡れておらず

すぐに火がついた。





まずはコーヒーを淹れることにする。



これもインディアンの師匠、

キースに習ったやり方を試す。

キャンプコーヒー、ブッシュコーヒーなどと

呼んでいただろうか。

やり方はとてもシンプル。

用意するのは鍋と水と

挽いたコーヒー豆。



沢に降り鍋で水を掬う。

焚き火にかけて沸騰させる。

続いてコーヒー豆を投入するが

この分量が難しい。

そもそも鍋に汲んできた水の量も適当だ。

ペーパードリップより多めの分量のイメージで

景気良く豆を入れる。



ひと煮立ちさせ、

適当な木の枝で攪拌する。

この時点でコーヒー豆の滓は

攪拌の対流に乗り、

湯の中を漂っている。



飲むときに豆滓が入ってしまうと

口の中でジャリジャリする。

この豆滓を沈殿させるコツがある。

少しだけ冷水を入れるのだ。

すると、あら不思議。

豆はスーッと沈んでいく。

そして上澄みをそっとカップに注げば

美味しいコーヒーが出来上がる。

筈だったが、色が薄い。

飲んでみるとやはり味も薄い。

豆を多めに入れたつもりだったが

まだ足りなかったようだ。




もう一つやってみたかったのが

棒に巻きつけて焼くパン。

これもキャンプブレッドと

呼ばれているらしい。



なんと、ちょうどHが

生地を仕込んできたという。

小麦粉に水とイーストと塩と砂糖を混ぜ

ビニール袋の中でこねる。

あまりに気温が低いと発酵しないため、

昨晩Hが寝袋の中で抱いて寝たものだ。



まっすぐな枝を何本か切る。

ビニールを切り、少しずつ生地を押し出しながら

枝に巻きつけていく。



それを焚き火にくべる。

すぐにいい香りが漂う。

炎に当てると表面だけが焦げ

中には火が通らない。

熾火くらいがちょうどいいようだ。

熾火の両側に太い薪を配置し、

生地を巻いた棒を渡す。

焼き鳥のように上下を引っくり返しながら

満遍なく焼いていく。




こちらはいい味に仕上がった。

湯気がもうもうと立つ

香ばしいパン。

子供達とキャンプするときにやったら

間違いなく喜ぶだろう。



ハフハフと焼きたてを頬張る。




キースがいつも作るのは

イースト菌でなくベーキングパウダーを使い、

フライパンで焼くバノック。

今度、フライパンを持参できるときには

これも試してみることにしよう。



日が高く昇り

少し暖かくなってきた。

青空を見ながら、

今日はこれから何をしようか思案する。



枝に積もった雪が溶け

パサリと落ちてきたものが首筋に落ち、

ヒャッと叫んでは笑う。



ユーコンだろうが北海道だろうが、

山で迎える朝は

いつだって特別だ。


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