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学びて時に之を習ふ 亦説ばしからず乎




雌鹿を獲った翌日。

平取ジビエ工房にて開催された

解体講習に参加した。



集合時間は8時半。

地面は堅く凍り、吐く息が白い。



到着した時には既に

その朝罠にかかっていた一頭が運び込まれていた。



この精肉所は有害駆除の罠個体を受け入れている為

毎日確実に鹿が持ち込まれて来る。

何頭も解体し、作業を手に覚えさせるのには最適だ。

ナイフやノコギリなどの道具は自分のものを使う為

普段の猟に近い感覚で練習できる。



受講者は5名。

友人を含め、解体を殆どしたことのない人も多く、

私は見学に回る。





講師を務めるのはとても優秀なハンター。

若手だが、私より猟歴は長い。

去年、勉強のために猟に同行させていただいたが、

鹿を見つける眼が秀逸であり、

山の歩き方や鹿へのアプローチも研究を重ね、

射撃や解体のノウハウも豊富な方だった。



私は山中では鹿を木に吊るして解体することが殆どだが

この講習では寝かせたまま解体する。

周囲に適当な木がない場合などに

その技術を体得したかった。

初心に帰り、色々な先輩方の技を盗もうと思っていた。



狩猟ほど、王道のメソッドが存在しないものは無い。

こうすべき、ああすべき、と

言うことは人によって違う。

実際、講師のハンターと精肉所のオーナーでも

ナイフの入れ方、入れる場所、順番など全く異なっていた。

完全に初心者だと混乱する。

私も最初の年はそうだった。

何が正解なのか全く分からない。



しかし今になって分かるのは、

正解などない、ということ。

或いは、状況によって正解は異なる、

ということだ。



家畜を屠殺場で殺し、精肉所で解体するのと違い、

山中での解体は、毎回シチュエーションが大きく変わる。

弾の当たりどころや、鹿の大きさ。

地面は土なのか、落ち葉なのか、雪に覆われているのか。

鹿を吊るせる木や内臓を洗える水場も有ったり無かったり。

日没までに残された時間により

丁寧さにこだわるのか、スピードを重視するのかも異なる。



多少ながら経験を積み、

自分の作業の流れが決まってきた段階で

他の方の解体を見るのは本当に面白い。

自分に無かった知識、思いつかなかった発想。

あらゆる状況に柔軟に対応するには、

引き出しは多ければ多いほどいいのだ。



10時過ぎ、更にもう一人のプロが到着した。

隣町のむかわ町で解体所を経営している方だ。

以前その方の解体を見たことがあるが、

丁寧なのに早く、手つきの鮮やかさが印象に残っていた。



これ幸いと、未だに分からない点、迷っていることなど

質問をぶつけていく。

全てにきちんとした答えが返って来る。

そこには必ず、なぜそうすべきなのか、という理論がある。

いかに肉を無駄にしないように取るかを考えながら

長年作業してきた方ならではの言葉だ。



ありがたいことに

実際に手本を見せて解説してくれたりもした。

圧巻だったのが皮の剥ぎ方。

私の場合は皮にある程度肉が付着してしまうのだが、

その方の剥いだ皮の内側は真っ白だ。

むかわの精肉所では、解体後の皮も有効活用している。

そのため肉だけでなく皮も綺麗に取る必要がある。





私たちは解体の手順を

最初から追いながら考えがちだが、

本当のプロは理想的な最終形を設定し

そこに向けて作業を逆算していく。



どんな料理を作り、どんな革細工を作るのか。

そのためには、どんな解体をすればいいのか。

その前に、鹿のどこに弾を撃ち込むべきなのか。

そもそも、どんな鹿をどんな方法で獲るのか。



どんどん遡ってゆき、最終的に、

というより、原点として問われるのが

命との向き合い方だ。

少しでも苦しませず、綺麗に処理して無駄なく生かす。

その確固たる決意があれば、確実にスキルは上がる。



経験と必然から導き出された手つきは自信に溢れ、

滑らかで美しかった。



午後2時、2頭の解体を終えて講習は終了した。

解体をきちんと体験できた友人は

二つ目のミッション・コンプリート。

今回の北海道旅行の目的を果たした。





私自身も、改めて様々な気付きがあった。



「学びて時に之を習う 亦た説ばしからず乎。

 朋有り遠方より来たる 亦た楽しからず乎。」



道を極めんとすること。

同じ志を持つ友がいること。



2500年前に孔子が見出した悦びは

今も変わらない。



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