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死にかけた当日と、その翌日の過ごし方について




生命の危機を感じた事故を起こした私は

混乱の極みにあった。

これは神からの警告なのだろうか。

だとしたらそれをどう受け止め

どのように行動したらいいのか。



そこに道筋をつけてくれたのは

大切な仲間たち。

その顛末を記したい。



引き上げた車は車屋さんに運ぶ必要がある。

丁度、私の所属する狩猟グループの会長が

カーショップをを営んでいる。

連絡を入れるとすぐに快諾してくれる。



運転に慣れている自分でも事故を起こしたこの日、

仲間の誰かが狩猟に出ていかもしれない。

今日の路面コンディションを伝えなければと

狩猟グループラインに注意喚起を発信した。



皆が私の無事を喜んでくれると共に、

ある若手が「手伝えることがあれば言って欲しい」

と返事をくれた。

そういえば彼は

狩猟用のジムニーのカーシェアリング事業を

立ち上げたばかりだ。



駄目元で

「顧客第一号として

 ジムニーを長期レンタルできないか」

と打診したところ、こちらも即時快諾。

今週末が車検だという。

まさに渡りに船だ。



更に駄目元を重ね

「明日から使いたいくらいなんだけど…」

と言ってみる。



するとすぐに動いてくれて

「丁度車検場に空きがあったので

 今日車検取れるかも」

とのこと。

もしかすると今日中にジムニーをゲットか?

と期待が高まるが、

過度な期待は禁物だと自制する。



事故現場の近くに住む友人宅に一時避難し、

札幌に戻る算段を考える。



友人は出張中、

奥様は仕事中、

子供たちは学校、

という状況の中

無人の家に上がり込んだ。



テーブルには食料と

私を気遣う暖かいメッセージが置かれていた。

ストーブの火は消されていない。

文字通り、身も心も温まる。



保険会社が友人宅にレンタカーを配車してくれ

1時間半後には札幌に向かって出立することができた。



車を走らせながら

頭の中は朝からの堂々巡りだ。



事故を機にしばらく狩猟から離れ

頭を冷やせ、ということなのか。



しかしこれが自分の根性を試されている場だとしたら

たとえ一時的にでも狩猟を中断するべきではない。



自問自答を繰り返すが

答えは出ない。



無性に北海道の師匠に会いたくなる。

そのまま師匠の元に直行した。



いつも通り暖かく迎えて下さり、

無事を喜んでくれる。



事故の詳細や

自分のモヤモヤをとりとめもなく話す。



しばらく狩猟を自粛すべきなのだろうか、

という疑問を口にしたところ、

たまたまその場にいた別の大先輩が

「その必要はない。これはリセットなんでないか?」

とおっしゃった。



一筋の光が見えた気がした。



これをきっかけに、

狩猟者として生まれ変わる。

初心に返り、

新しい一歩を踏み出す。

そんなビジョンを得た。



少し気が楽になり、

先週師匠が熊を仕留めた時の

手に汗を握る話を聞いたり、

二日前の熊の痕跡や体験から

自分が考えたことなどを話す。



鹿の土饅頭を見つける直前、

地面から二羽のミヤマカケスが飛び立った時に

熊の気配を感じたこと。

メス鹿を解体中に集まって来たカラスが

なぜか一斉に飛び立った時に

嫌な予感がして銃を手元に手繰り寄せたこと。



確かにそれは熊だったであろうと

私の推測を肯定しつつも、

更に深く状況を分析し

その時どうすべきだったのか

打つ手を教えてくれる。



これこそが生きた学問。

かけがえのない授業だ。



思わず時間を忘れて話し込んでしまった。

慌てて事故車が既に運び込まれているであろう

カーショップに向かう。



今日中に廃車の手続きを済ましてしまうことになり、

印鑑証明をもらいに市役所に行く。

そこで「車検が通ったので今日からジムニー使えます」と

待望の連絡が入った。



役場から戻ると、

カーシェアを立ち上げた若手が

カーショップに来ていた。

そして白いジムニーも。



朝に事故を起こしたにも拘らず

夕方には新しい車を手に入れた。



どこかの手続きが少しでも狂えば、

さすがに事故当日に

車を手に入れることはできなかっただろう。



全ての歯車が

完璧なタイミングで噛み合い

動力が伝播して行く。



物事が動く時は

大抵こうしたミラクルが起きる。



レンタル業を立ち上げた若手と、

カーショップの店長と、

祝杯をあげることになる。



自分にはない勢いや発想。

彼らと話すのは本当に楽しい。

色々なことを教わり

ヒントを得ているのは自分の方だと思う。



気が付けば終電も近い。

色々なことが有り過ぎた

長い長い一日が終わろうとしている。

心地良く酔いが回ったところで腹を決めた。



明日朝起きたら、

新しい車で

新しい気持ちで

狩りに出るのだ。



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